絵の存在を引き立てる、粋な『江戸表具』

日本橋・浜町で表具師として「経新堂 稲崎」を営む稲崎知伸さんに、店名の由来を尋ねてみた。「『経新堂』と名付けたのは5代目であるうちの親父です。それまでは代々、初代の『新八』を襲名していました。ただ襲名するのって戸籍の変更が必要だったりととても大変で、経師屋の『経』と新八の『新』をとって『経新堂』という名前になったんです」。

表の看板には店名と別に、『大経師』と書かれている。「これは江戸時代に与えられた称号です。大経師は、苗字が名乗れて刀を持ってお城に出入りができたという、ある程度認められた経師屋のことなんです」。

表具師として掛け軸や屏風などの制作を行う稲崎さん。作られている作品の特徴について伺うと、「僕らがやってるのは『江戸表具』で、他には京都の『京表具』があります。京都は神社仏閣が多く、お寺のご住職が書かれた書を表装することが多い。中が墨の書なので、周りに金襴(きんらん)と言って、金糸が入ったような裂地をふんだんに使ってきらびやかに作るのが特徴です。対してこちらは江戸時代の浮世絵文化があり、浮世絵などの絵を中心に表装します。絵を生かすためのものなので、周りが先に立たず、絵を引き立てる粋な表具っていうのかな。それが江戸表具の特徴です」。確かに店内の掛け軸は、柄物の裂地を使いながらもしっかりと絵が目に留まる。

「時代がかった絵に対して、あんまりピシッとした綺麗な裂をつけてしまうと雰囲気が変わってしまいます。なので、裂をわざと少しくすませてみたり、汚してみたりもするんですよ」。歴史を経てきた掛け軸の趣まで再現するため、こだわりを持って向き合っている。

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