粋な浴衣をより多くの人へ。技とデザインを磨き続ける
日本橋で170年以上続く呉服店『竺仙』は、着物文化の変遷を一番近くで見続けてきた。「浴衣の元になっているのは『長板中形』という制作技法で、これが江戸の浴衣なんですよ。当時長板中形は職人一人で1日2反くらいしか作れなかった。けれど、江戸の庶民っていうのは100万人ほどいたわけでして、当時の江戸は職人たちがかなり多かったのですが、それでも100万人の人に行き渡るってことはないですよね。なので、江戸時代に着られた浴衣はほとんど誰かの古着だったんです」。
「それではだめだということで、明治の頃には『注染』という新しい染色法が出てきました。これなら一人の職人が1日140反ぐらい作れるんです。それくらい作れたら、100万人の一人ひとりに新しい浴衣を届けられる。そういう時代に変わっていったのです」。
江戸時代から人々に浴衣を提供し続ける竺仙は、東京のみでなく全国に多くのファンを抱える。「店頭にいらっしゃることもあれば、百貨店さんでお求めになる方もいるし、地方の専門店さんや、今ならオンラインで見てくださる方もいます。だんだんと、お客様が私どもに近づいて来てくださっている気がしていますね。どこの浴衣でも良いわけではなく、買うなら竺仙で、と選んでくださるようになってきていると感じます」。江戸の粋な感性を今も伝える竺仙の浴衣は、これからも多くの人を魅了し続けるに違いない。