使い心地を一番に、丁寧だけどやり過ぎない手仕事を

「うぶけや」の8代当主矢崎豊さんは、この道に入ってもうすぐ50年。仕事を続ける上でのやりがいは、お客様が品物の切れ味や品質に満足し、長く愛してもらえることだという。うぶけやの刃物を気に入り、家族数世代に渡って贔屓にしているお客様も少なくない。

長く愛される秘訣はどんなところにあるのだろうか。「特にこだわりっていうのはないですけれど、お客様が使いやすいように常に同じ状態に研いだり調整していくということじゃないですかね」。使い手の勝手の良さを重視し、品質を守ることを大切にしている。

「ちょっと腕が立って研げるようになってくると、刃物を格好良くピカピカに仕上げたくなる。調子に乗って一丁の包丁を何時間もかけて研いでしまうのです。例えば美術品の刀剣なんかはとにかく綺麗に磨き上げるわけですが、うちで研磨しているのは道具であって、刀剣ではないのでね。それで一人悦に入ってると、「その包丁何時間かけて研いでるんだ?それでいくらもらうつもり?」と、当時の親方からよく怒られました」。

道具の研ぎ職人は一日何十本という数をこなす必要がある。「切れないような研ぎはいけないけれど、道具の研ぎのレベルっていうのがあるんだとこっぴどく言われていましたので、気をつけていますね。丁寧でありつつも、お客様をお待たせしないためには一日の仕事量を増やさなければいけないですから、心の中では多少の葛藤がある。ここまで、っていうのを見切ることも仕事としては大事じゃないでしょうかね」。職人として磨き上げたい気持ちはお客様の使い心地へと還元し、道具に相応しい丁寧な仕事を心がけている。

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