老舗呉服店の始まりは、趣味が高じて商いに
江戸小紋の着物と浴衣を中心に扱う『竺仙』は天保13年(1842年)創業。代表の小川文男さんで5代目となる老舗呉服店だ。「江戸時代は俳句や和歌、短歌などの様々な趣味の会があり、それぞれがグループを作ってお付き合いをしていたんです。初代も俳句が好きで集まりに参加し、その中に狂言役者や浮世絵師、落語家がいたりと、広がりがあったらしいんです。そこで同じ趣味仲間として、役者が芝居小屋で演じる時に着る衣装の相談を受けたりして、さらにそれを具体的な形にするという風なことを始めたんです。商いというよりも趣味の延長みたいな感じですね」。
「今でも似たようなものでしょうけど、役者が着ていると、それは一体どこで買ったんだ?誰のデザインだ?と一般の方達は思うじゃないですか。次第にこれを作ったのは竺仙だと分かって、衣装やデザインができるのであれば私のも作って欲しい、とだんだん仕事として広がっていったようです」。
竺仙の商品の柱でもある『江戸小紋』も、呉服の商売を広げたきっかけの一つになっている。「江戸小紋はもともと武家の裃(かみしも)が発達したものなんですね。当時裃作りをしている職人がいたので、細かな図柄の型紙を作って着物を染める『型染め』という技術を持っていたんです。型を作る職人と染める職人は別々なわけですけども、それを一緒にして浴衣を作ったことで、江戸らしく格好いい、いわゆる『粋』な浴衣が出来上がったというのがうちの初代ですね」。趣味が高じて商いへと結びついた竺仙の歴史。その粋なセンスは江戸の人気を超え、現代でも多くの人々に支持されている。