一度使えば必ずわかる、黒文字楊枝の魅力
「日本橋さるや」の爪楊枝には、『黒文字(くろもじ)』というクスノキ科の木材が使用されている。爪楊枝の主な用途は食後の歯間掃除や和菓子用で、使い捨てが一般的だ。大量生産の楊枝も増えている中、黒文字を使って職人が一本ずつ手仕事で仕上げる爪楊枝にはどんなこだわりがあるのだろうか。
黒文字楊枝の大きな特徴は「弾力性があり、強度が高く、折れにくいこと」だと山本さんは語る。「使っていて全くへたらないんですよ。一度黒文字を使うと戻れないと思います」。
「とても香りが良いのも特徴。黒文字の中でも一番香りの強い『大葉黒文字』という種類を使用しています」。試しに一本折らせてもらうと、爽やかな芳香が広がった。香水や化粧品、アロマなどにも用いられるという黒文字。和菓子をいただくときにもこの香りが匂い立つのは、とても粋な文化だ。
さるやを代表する極細の『上角楊枝』。このように楊枝そのものを細く仕上げたいものなどは手削りだが、機械削りで均一なサイズに仕上げる商品もあるのだとか。「手削りの職人は現在一人。ですが、きちんと作れて技術を教えられる状況にないとこの先困るなと思い、今父が勉強しているところです」。
「一本だけ綺麗な楊枝を作れと言われたら誰でもできるんですよ。2、3時間あれば形にはなります。それを商品として短時間でたくさん生産していくことが難しいところですね」。楊枝作りは手間のかかる作業だが、使ってくれる人には確かな自信を持って届けている。手仕事に誇りを持ち、後世へと伝えていく姿勢が垣間見えた。