舞台役者たちの足元を支える伝統の「新富形」

新富町で長く足袋を中心とした和装雑貨店を営む「大野屋總本店」。店主の福島茂雄さんにお話を伺う。「1770年頃に初代の美代吉が三田で装束仕立て屋を始めたのが創業のきっかけです。1849年(嘉永2年)に新富町に移り、そこから170年ほど商売をさせていただいて、私で7代目になります」。

新富町に店を構えた経緯については、「この辺りは『新富座』という芝居小屋があり、華やかな街でした。それで近隣には大道具や衣裳などの芝居にまつわる会社が集まっていましたから、自然とここを選んだんでしょうね」。

今や洋服が中心の生活様式。得意先は日頃から和服を着る人たちが中心だ。「歌舞伎の役者さんや能楽師さん、料亭の女将さんや中居さんなどが主なお客様です」。衣裳屋から依頼を受けて劇場まで直接手直しに出向くこともあるという。「足袋を使ってくださる役者さんの舞台を観劇するときは、つい足元が気になって目がいってしまいますね」。

役者たちから支持される足袋の特徴を聞いてみると「うちの足袋は『新富形』と呼んでいるのですが、底の部分を細くして、上を包み込むように作ることで、足がすっきりと綺麗に見えるようにしているんです。底が広いとのべっと見えてしまうので、そうならないよう型紙作りから気をつけています」。和装文化でも足を細く見せたいという発想があることが意外に思えたが、それは役者たちのためでもあった。「舞台に立つと、着物から見える足が目立つんですよね。特に女形の方は意識されていると思います」。老舗足袋屋の細やかな心配りが今も役者たちの足元を支え続けている。

PAGE TOP