手から手へと伝える「感覚」。江戸箒作りの肝は草選び
江戸箒の製造販売を行う「白木屋伝兵衛商店」。お話を伺った中村悟さんで7代目となる老舗店は、もともと畳表の問屋だったという。「創業当時は畳が街に普及し始めた頃。当時は『シュロ』という植物を使った茶色の箒が主流だったのですが、シュロ箒は使い始めに粉が出てしまい、その粉が畳の目に入ってかえって汚れてしまうんです。そこで、畳にもすぐ使える箒が欲しいという要望で江戸箒が生まれました。目に入ったホコリも掻き出せるし、植物性のアクが出るので畳に自然なツヤを出し、表面が毛羽立つのも抑えてくれます」。
「初代が、これは売れるぞ、と思ったんでしょうね。それで畳屋から箒屋になった。多分すごく頭のいい人だったと思うのですが、箒の形も作り方も、その頃からほとんど変わってないんです」。
江戸箒を作る上で、技術の核となっているのは『草より』と呼ばれる箒草の選別作業。箒として使われる穂先ではなく、根元に近い穂首を触ることで草の良し悪しを判断する。「草のランク分けができないと商品の品質にばらつきが出てしまいます。穂先の柔らかさは穂の長さによって変わってしまうので、穂丈を全部同じにしないとわからない。そんな均一な長さの草はないので、穂首を触ることで穂先の柔らかさを予測しているんです」。
「こういう技術って何年も体験して身につけるものだから、一度その技術が途絶えてしまうと全く分からなくなってしまう。けれど、一度その感覚がつけば、ほぼ同じ商品を作り続けることができるんです」。マニュアル化できない感覚を職人の手から手へと共有することによって、江戸箒作りの技術は今も伝承されている。