手仕事のその先に、組台は職人の心を映す『鏡』

伝統工芸の組紐を家業として代々継承している「龍工房」。組紐づくりにおいての難しさは、心の状態であると福田隆さんは語る。「組紐づくりに使用する『丸台』にある円盤状の上板を、職人の間では『鏡』と呼びます。なぜそう呼ぶかと言うと、紐を組んでいるときの自分の心が映し出されてすべて目合いに現れます。どんなに技術があっても心が乱れていると目合いも乱れてしまう。台に向き合うときは、心を平らにして向き合わないといけません」。

東京都伝統工芸士である福田さんは2019年、卓越した技能者を表彰する『現代の名工』に選ばれた。「ありがたい称号を頂戴しましたが、自分の作品作りにおきましては、現状に満足せず、もっといい作品をお客様のもとに届けることができる、という思いを持って台に向き合っている次第です。これでもうよし、っていう終わりはないですね」。名工となっても、変わらぬ向上心を持ち続けている。

龍工房の仕事は、デザインの図案『綾書き』の作成や組みの作業のみならず、農家とともに行う絹糸作りから始まっているのだという。「組むという行為よりも糸を作って染めて加工して、組台にセットするまでの方が実は手間がかかっているんです」。

「私の父の時代よりずっと継承してきた言葉が『こだわり』なんです。素材にこだわり、色や柄、そして締め心地、使っていただいた後お客様の手元でどういう状態になるかを想像して作る。そういうところがこだわりですね」。組紐を手に取ったお客様のその後まで想像し、丁寧なものづくりを行う。その信念は揺らぐことがない。

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