伝統の江戸表具を今に伝える3代目経師
襖や屏風、掛け軸などの表具を制作する「経師屋」を営む内田幸三さん。祖父が明治35年に「内田表具店」として創業し、3代目となる。自身がこの仕事に就いたのは19歳のとき。幼い頃から父の傍らで店を手伝っていた内田さんが後を継ぐのはごく自然なことだったという。
時代とともに日本の家の様式も変化している。和室そのものが少なくなり、床の間や襖の数も減少傾向だ。現在は掛け軸の作成や修繕、壁や障子の張り替えが主な仕事になっている。「掛け軸はお客様からお持ちいただいた絵をお預かりして仕立てます。周りに貼る裂地(きれじ)を見せて欲しいと言われることもありますが、ほとんどはこちらにお任せいただくことが多いですね」。
信頼のもと任される掛け軸づくりの上で、自身に課しているルールがある。「あんまり奇抜なことはしないと決めていますが、なるべく他にないような色使いを心がけています」。言葉の通り、お話を伺った部屋の掛け軸は落ち着いたトーンの朱色と露草色の裂地が使われていて、新鮮な組み合わせだ。どこかモダンな雰囲気を醸し出している。
紙にまつわること全般、と言っても良いほど多岐にわたる表具は、それらを作るために幅広い技術を要する。熟練の職人にとっても困難なことは多い。「長年掛け軸のシミ抜きが難しいと思っていたのですが、この数年でなんとかこなせるようになってきました。砂子の技術なども教わったし、新しくやろうと思えばやれることはまだまだあると思います」。日々探究心を持って仕事に取り組むその姿はとても力強く見えた。