長く続けられることが表具師の仕事の醍醐味

「内田表具店」が日本橋に店舗を構える以前は、神田に居住地を置いていたそうだ。「明治44年頃に日本橋に移ってきました。隣にある笠間稲荷神社に祖父が信心していたこともあり、毎月この場所に訪れていたようです。地域でもだいぶ古い家になってきましたね」。

生まれも育ちも日本橋の経師・内田さんは、表具師組合の技術講師を勤めることも。「内装や表具の技術を教える勉強会に月1回参加しています。生徒は経師屋の息子が中心ですが、組合員に限らず趣味で学ばれる一般の方もいらっしゃいます」。慣れ親しんだ土地で伝統工芸の継承に力を入れている。

地域との交流は深く、日本橋の老舗料亭『濱田家』の内装を一手に担っている。「濱田家さんの仕事は親世代からずっと任せていただいています。幼い頃から父と共に出入りしていて、子どもながらにやりがいを感じていましたし、今も変わらず続けさせてもらえることがありがたいです」。新年を迎える前に障子の張り替えなどを行う年末は、毎年気合が入るという。

今でこそ少なくなっている日本間だが、現代にも濱田家のようなこだわりの和室は存在する。そんな和室の内装に携わる際は、規模や雰囲気に合わせた襖や障子を提案する表具師の腕がなる。「設計図に『襖の縁が黒』と書いてあるだけだったとしても、つや消しの加工をご提案したり、紙ひとつでも、手漉きの鳥の子紙を選んだり、そのお座敷らしい雰囲気のものを常にご提案できなければいけません」。こだわりの和室には表具師の情熱が息づいている。次に座敷に入る時は、襖の縁まで気を配りその趣を味わいたいものである。(写真提供:濱田家)

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