修繕を重ねて後世へとつなぐ『江戸表具』の世界
日本橋・浜町の表具処「経新堂 稲崎」は、江戸時代の天保年間に創業し、およそ180年の歴史を持つ。今回は稲崎知伸さんにお話を伺った。「掛け軸、額装、屏風の3つの制作がメインです。あとは昔からの経師屋ですから、ご家庭の襖や障子といった内装関係も行っています」。
新しい作品づくりも行うが、今の仕事の中心は掛け軸などの修繕だという。「基本的に修繕は水洗いです。紙が朽ちて溶けそうな状態のものありますね。今から100年前ぐらいに描かれた絵画などが時間を経てだいぶ傷んできている。それらを綺麗に仕立て直して後世に残したいという人が多く、現在は修繕の仕事が増えてきています」。
一つの掛け軸が完成するまでは、和紙の裏打ちを繰り返し行う根気のいる作業だ。「絵が描かれている本紙の厚みや、裂地の厚みも全部違いますから、我々の方で考えて設計し、最終的に全部が同じ厚みになるよう丁寧に作っています。そうしないと、巻いた時に折れてしまうんですよ。だから掛け軸はいかに柔らかくしなやかに仕上げられるかっていうのが一番大事なところでもあります」。
表具に使われる糊も自ら作っているという。「我々が使う糊は何回でも水で戻りますから、今後もやり直しができるというのが利点です。現代は機械で作る掛け軸もありますが、化学糊を使って熱で圧着するので、後から剥がすことができません。修復もできず使い捨てになってしまう。後世に残したい物っていうのは、ちゃんとした技術のもとでちゃんとした糊や和紙を使って作らないと残っていかないですね」。丁寧に作られたものだからこそ、何度も修繕を繰り返し、後世に残り続けていく。